非球面レンズとは、正確な球面ではない曲面を持つレンズのことです。

そう説明すると、たまに円形ではなく四角や三角のレンズを想像する人がいます(笑)

写真用のレンズは、必ず球面で構成されています。

球面と言うのは、正面から見た円形のことではありません。

レンズの断面は、常に球の一部を切り出したような形をしています。

この人間の瞳のカーブのような形状を「球面」と呼ぶのでございます。


さて通常の球面レンズは、レンズ用のガラスの塊を削って作りますが……

その時に精密な研磨技術により、レンズの周辺部に球面でも平面でもない微妙な部分(非球面)を作るのです。

そしてこの球面でも平面でもない微妙な部分(非球面)を含むレンズを「非球面レンズ」と呼ぶのでございます。


なぜこのような、手のかかるレンズを作らなくてはならないのでしょうか?

実はどんなに安物のレンズでも、入射した光が屈折して集まる1点(焦点)だけは、そのレンズが持つ最高の画質なのです。

100円ショップで買ってきた虫眼鏡も、真ん中の一点(焦点)だけは、驚く程画質が良いのです。

でも残念な事に、レンズの周辺部に向かうほど酷い画質になってきますよね。

これは全ての球面レンズがかかえる「収差」という欠点で、レンズの中心(焦点)から周辺部に向かうにつれて強く出てきます。

具体的には、像がボケてきたり、色が滲んできたり、形が歪んできたりするのでございます。


当然そのままでは画質が悪くて撮影レンズとして使えないので、収差を補正するために何枚ものレンズを組み合わせるのです。

しかし全ての収差を抑える事は不可能に近く、こちらを抑えれば、あちらが飛び出すというような現象が起きてしまいます。

最終的には完全に補正しきれずに残ってしまった収差が「レンズの味」となるのでございます。


少しでも収差を残さないようにしようと思えば、非常にたくさんのレンズを組み合わせなくてはなりません。

ところがここで「非球面レンズ」を使うことにより、あら不思議!

1枚の非球面レンズで、球面レンズ数枚分の収差を抑えることができるのです。

その結果、画質の向上と共に、レンズの構成枚数を減らして、レンズ全体を軽量コンパクトにすることができるメリットがあったのでございます。


非球面レンズは精密研磨で作る以外にも、現在は2つの製造方法でコストダウンに成功しています。

一つ目は「ガラスモールド非球面レンズ」と呼ばれる製法です。

金型にガラスを流し込み、非球面レンズを精製させてしまうのです。

二つ目は「ハイブリット非球面レンズ」と呼ばれる製法です。

こちらは、通常のガラス球面レンズの表面に、非球面形状の樹脂を張り合わせて作ります。


このように非球面レンズの製作技術が進歩して、コストダウンに成功した現在は、スマートフォンのカメラや、廉価版のコンパクトカメラにまで採用されています。

また撮影レンズのみならず、ファインダーの接眼レンズや、メガネにまで使用されているのでございます。